湯〜亀にかける想い

長年の銭湯のお客様が身体を悪くして何ヶ月もお風呂に入れていない。


その話を聞いたのは、2001年の夏のことでした。
銭湯を家業として育ち、思えば日々の食事も着る物も、学校に通ってこられたのも、お客様がお風呂に入っていただけたからこそだったわけです。そのお客様が人生の晩年に何ヶ月もお風呂に入れずにいる。
これは風呂屋として、なんとかしなきゃいけないのではないか。それが風呂屋の使命ではないか。
この時そう思ったわけです。

それでそのお客様の家に行って、車イスで新生湯にお連れして、お風呂に入ってもらい、体を綺麗に洗ってまたご自宅に送り届ました。毎日はできませんが、週に何度かそれをしました。他にも体を悪くした人がいると聞いてその方の家にも行き、さらに他にも何人かの入浴のお手伝いをしました。そんなことを2年ほど続けました。

きっと他にも同じような方はたくさんいて、私がやっていたことはそのほんの少しをすくい上げていただけだと思います。でもそれを無意味なことだとは思いませんでした。


まず今そこにいる人のために。


巨大な何かを見てとても無理だと思って何もしないより、目の前のひとりに手を差し伸べたい。この精神は今も同じで、遠くに支店を出して拡大していこうとは思いません。手の届く範囲の地域を守る。もっと広い範囲を大規模に整備することは、きっと誰か得意な人がいて、私は目の前のひとりのために力を尽くそうと思ったのです。

家に行って新生湯にお連れして入浴介助をすることから始まった介護は、銭湯の脱衣場を活用したデイサービスになりました。ヘルパーステーションを併設し、ケアマネジャー、訪問看護、小規模多機能、認知症対応型通所介護、サ高住をひとつ処に開設していきましたが、事業を拡大しようと思ったことはありません。この地域の目の前のひとりにとって必要なものを、整備していった結果でした。

「高齢期を迎えた人々の地域基盤の構築」は新たなステージに進もうとしています。
介護が必要になった方への援助に留まらず、「介護になる前の介護予防」として、40歳以上限定フィットネスクラブ「P2M」を作り、品川区の一般介護予防事業「カラダ見える化トレーニング」を受託いたしました。
また地元の商店街のご協力を得て「認知症の方々にもやさしい街づくり」プロジェクトに取り組んでいます。地域のみんなが認知症サポーター養成講座を受講し、商店街中、街中がオレンジリングに溢れている。そんな街にしたいと思っています。


少々おこがましいですが、街づくりをしているつもりです。この地域を「やさしい街」にしたい。それがこの街への恩返しだと思っています。湯~亀が「そばにいるから安心」だと思ってもらえるように、これからも精進して参ります。

これからも、そしてこれまでもそうですが、とても私一人の力でできることではありません。志に賛同してくださった多くの関係者の皆様、スタッフの力によって、ここにいると思っています。まだまだこの街、この地域のためにやるべきことがあると思っています。関係者の皆様におかれましては、引き続きお力をお貸し願えればと存じます。
そしてスタッフの皆さん。退職された方も含めて、力を尽くしていただきありがとうございます。

ここに山を作ろうとして、ダンプカーで土を運んだ人、スコップで運んだ人、スプーン1杯を運んだ人、量は違えど山を作ろうとした志は同じです。

私は、人は仕事を通してしか成長できないと思っております。
私自身もまだまだ至らない点ばかりでございますので、共に成長していければと思っております。たとえスプーン1杯でも、一緒に山を作ろうとしてくださる新しい仲間との新しい出会いに、おおいに期待しております。

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